不眠症について


■不眠症とは?

「眠れない病気」だという事は皆さん何となく理解していると思いますが、ではどこまで眠れないと不眠症になるのでしょうか。
不眠症は疾患ですので診断のための定義がありますが、実は診断にあたって「〇時間以上眠れてないといけない」「眠るのに〇時間以上かかっていないといけない」といった具体的な決まりがあるわけではありません。

不眠症がどういう状態なのかというと、
•本人が十分な睡眠がとれていないと感じている
•それによって本人が苦しんでいる
•それによって本人の生活に支障が生じている

という状態です。

本人が「十分な睡眠がとれていない」と困っていて、それによって「日中の仕事の集中力が落ちている」「日中常に疲労感を感じている」「眠気で必要な活動が出来ない」などの生活への支障が生じている状態が不眠症になります。
必要な睡眠時間がどれくらいかというのは人によって異なりますので、厳密に数値で定義する事は不可能なのです。
例え10時間以上ベッドで横になっていたとしても、「十分な質の睡眠がとれていない」「それによって日中に集中力が落ちたりと支障が生じている」という事であればこれは不眠症と考えます。
反対に、睡眠時間が一般的には短い時間であっても本人が困っておらず、生活への支障を生じていないのであればこれは不眠症とはなりません。
毎日2時間しか眠っていない人でも、本人の生活に支障が生じていなければ、これは診断的に言えば不眠症にはなりません。 ただし人の適正な睡眠時間は個人差はあるものの、おおよそ3~10時間程度に収まるのが通常です。
上記の例は、もし本当にこれで本人の生活に支障が生じていないのであれば不眠症にはなりませんが、実際は2時間睡眠では今後に何らかの支障が生じる可能性が高いと言えます。

■不眠症の分類

一言に「不眠症」といっても、不眠症にもいくつかのタイプがあります。
タイプによって治療法も異なってきますので、自分の不眠症がどのタイプに当てはまるのかを知る事は大切です。
ここでは代表的な不眠症の4つのタイプを紹介しますが、これらは綺麗に分けられるものではなく、いくつかを合併している不眠症もあります。

Ⅰ.寝付けない「入眠障害」

入眠障害とは「寝ようとしているのに寝付けない」というタイプの不眠です。
ベッドに入って横になってもなかなか眠りに入る事が出来ず、十分な睡眠がとれなかったり、日常生活に支障が出てしまうような状態です。
消灯したりベッドに入ったりといった、入眠の準備が整った時から、実際に寝付いた時までの時間を「睡眠潜時(SL:Sleep Latency)」と呼びます。 一般的な健常者の睡眠潜時は30分以内だと言われています。
ベッドに入ってから30分以内に眠りに入れている場合は、おおむね正常だと判断して良いでしょう。
日本睡眠学会では入眠障害を「夜間中々入眠出来ず寝つくのに普段より2時間以上かかる状態」と記載しています。
入眠障害の一つの目安として、「2時間以上」という値は参考にする事が出来ます。
実際は2時間以下であっても、本人が苦痛を感じており、日常生活に支障が生じているようであれば入眠障害として扱います。

Ⅱ.何度も目覚めてしまう「中途覚醒」

中途覚醒とは「一旦は眠れてもすぐに起きてしまう」というタイプの不眠です。
夜中に何度も目覚めてしまい、十分な睡眠がとれず、本人が苦しい思いをしたり生活に支障が生じているような状態です。
特に高齢者であれば夜中に1~2回目覚めてしまう事はありますが、 目覚めてもすぐにまた眠りに入れたり、日中に眠気などがなく生活に大きな支障がない場合は中途覚醒にはなりません。
中途覚醒は夜中に目覚めてしまうだけでなく、そこから再び眠りに入るのが難しいという事が多く、これが患者さんを苦しめます。
「早く寝なきゃ」と焦りますが、焦れば焦るほど眠れなくなってしまうため、どんどん不眠が悪化してしまいます。

Ⅲ.朝早くに目覚めてしまう「早朝覚醒」

早朝覚醒は「本来起きたい時間よりも早く目覚めてしまう」というタイプの不眠です。
ただの早起きというわけではなく、本来起きるべき適正な時間よりも早く目覚めてしまい、 その後再び眠りに入る事が出来ないような状態を早朝覚醒と呼びます。
早朝覚醒では、適正な睡眠時間が得られないため、日中に眠気や倦怠感などの支障が生じます。
また本来の起床時間よりも早く目覚めてしまう事で体内時計のリズムも狂ってしまいます。
その人が本来必要な睡眠時間より短い時間で覚醒してしまい、その後に眠りに入れないというのが早朝覚醒で、 「何時に起きたら早朝覚醒」「何時間で起きたら早朝覚醒」と定義するようなものではないのです。

Ⅳ.寝たはずなのに眠った気がしない「熟眠障害」

熟眠障害とは眠りの質が浅くなってしまう事で「ちゃんと寝たはずなのに疲れが十分に取れず、眠った気がしない」という状態です。
熟眠障害は、睡眠時間だけ見れば正常です。1日8時間と十分な睡眠時間を取れているため、不眠症だと気付かれない事もあります。
しかし時間は十分取れていても眠りの質が悪く、浅い眠りが続いているため、心身の疲労は十分に回復できていません。
その結果、
「ちゃんと寝ているはずなのに、日中眠い」、「ちゃんと寝ているのに、疲れが取れない」
という状態となります。

■不眠症の原因

不眠症を発症する原因には様々なものがあります。

Ⅰ.精神的ストレス

不眠症を発症してしまう原因として最も多いのが「精神的ストレス」です。
精神的に「不快」と感じるような刺激は、睡眠を悪化させてしまう不眠症を引き起こします。
どのような刺激を「不快」と感じるかは人によって異なるため、精神的ストレスの原因も人によって異なりますが、
•人間関係(仕事仲間や家族、隣人との関係など)
•環境的ストレス(仕事内容や生活環境など)
などが多く見受けられます。
これら精神的ストレスを感じる原因があると、不安や落ち込み、イライラ、怒りなどといった不快な感情が生じます。 これらの精神状態が続くと、緊張の神経である「交感神経」が昼夜を問わず活性化してしまうようになります。
交感神経が活性化している状況では人は眠りにつけませんので不眠が生じます。

Ⅱ.身体的ストレス

身体的に「不快」と感じるような刺激も不眠を引き起こします。特に睡眠中にこのような刺激を受けると睡眠の質が低下してしまいます。
睡眠中に、
•痛み
•かゆみ
•息苦しさ
•尿意
などといった不快な刺激が生じれば、睡眠の質が浅くなり目覚めてしまうでしょう。

Ⅲ.薬物

薬物や特定の物質の中には、脳の覚醒レベルを上げてしまったり、睡眠の質を低下させるような作用を持つものがあります。
そのようなお薬や物質を定期的に摂取しているような場合、これも不眠の原因となります。
不眠を引き起こすお薬にも様々なものがありますが、一例を挙げると、
•抗うつ剤
•ステロイド
•パーキンソン病治療薬
•降圧剤
•高脂血症治療薬
•喘息の治療薬
•下剤
などが不眠の原因となる事があります。
これらのお薬を服用していて不眠が生じている場合は、お薬を処方している医師にお薬の副作用での不眠ではないかを確認する必要があります。
特に時期的に考えて、そのお薬を飲み始めてから不眠が出現しているのであれば可能性は高いと考えられます。
また日常で摂取する物質の中にも不眠の原因になるものもあります。
例えば、
•アルコール(お酒)
•ニコチン(タバコなど)
•カフェイン(コーヒー、チョコレートなど)
などが挙げられます。
アルコールは寝付き(入眠)は改善させますが、眠りの質を悪化させる事が知られています。
またニコチンやカフェインは精神刺激作用があり、脳を覚醒させてしまうため、このような物質を定期的に摂取していたり寝る前に摂取している場合は、 これらの物質の摂取によって不眠が引き起こされている可能性が高くなります。

Ⅳ.環境

寝室の環境が原因で不眠になってしまう事もあります。
寝室環境にストレスを生じさせるものであると、睡眠の質が低下します。
例えば寝室の
•温度
•湿度
•明るさ
•騒音
などは睡眠の質に大きな影響を与えます。
寝室の室温が暑すぎたり寒すぎたりすればなかなか眠れなかったり睡眠の質が低下したりするでしょう。
寝室に光が入ってきたり、大きな音が聞こえたりするようであれば、これも睡眠に悪影響を与えます。
眠る場所である寝室の環境も不眠症の原因になりえます。

Ⅴ.生活習慣

日中の生活習慣に問題があると、それが不眠の原因となる事があります。
例えば、朝日を浴びていなかったり、日中室内でずっと過ごしている方は体内時計のリズムが崩れやすく、夜の適切な時期で眠気がこなくなってしまう事があります。
朝日は体内時計をリセットするはたらきがあります。また日中に十分な光を浴びないと、眠りに導く物質であるメラトニンの分泌が低下する事も知られています。
眠る時に極端に空腹であったり満腹であったりすれば、睡眠の質を低下させます。 朝・昼・夕と適切な時間に適切な量を摂取し、睡眠に入る3~4時間前には食べ物を食べないようにするのが良いでしょう。
一日中動かないような生活をしていると、心身がいつまでも覚醒せず、疲労もたまりませんので、夜になっても眠る事ができません。

また、睡眠時間が不規則な場合も体内時計が狂いやすいため不眠の原因になります。夜勤があるシフト制の仕事に就いている方などでは仕方がない一面もありますが、 なるべく毎日同じ時間に睡眠を取るというのも、睡眠の質を上げるためには大切です。

■治療法について

不眠症を克服するために大切な生活習慣

睡眠習慣の見直し
「不眠症を治したい」
「不眠症を克服したい」

と考えた場合、精神科や心療内科を受診して睡眠薬を処方してもらう、というのが一般的です。
不眠症で苦しんでいるのであれば早めに病院は受診すべきですし、必要であれば睡眠薬の服用もした方が良いでしょう。
しかし専門的な治療を行う前に、「生活習慣の改善」も行っていくべきです。
不眠症で苦しんでいる方のお話を聞くと、睡眠に悪い生活習慣が認められる事がほとんどです。それを改善すれば、ある程度は不眠が解消されるはずです。
睡眠薬などを検討するのは、生活習慣を改善した上でも不眠がなお続いてしまう時にすべきで、生活習慣の改善を行わず安易に睡眠薬に頼るのは良い方法とは言えません。

生活習慣のうち、特に大切な事に、
•日中に適度に身体を動かす事
•日中に十分な日光を浴びる事
•入浴で身体を温める事
•寝室環境を整える事
•寝る前にタバコやアルコールを摂取しない事

などが挙げられます。

不眠症の治療薬

こちらを参照ください。

睡眠薬以外の治療薬

こちらを参照ください。

■お薬を使わない不眠症の治療法について

不眠症の治療というと「お薬を飲んで眠る」というというイメージがありますが、不眠症の治療法はお薬だけではありません。
お薬による治療法はあくまでもお薬の助けを借りた上で眠れるようになっている状態です。
対してお薬以外の治療法は、自分の眠りの力を回復させるような治療法になります。
お薬による治療法と比べて、自分自身の工夫や努力が必要であり、効果が出るまでに時間もかかりますが、 お薬と異なり副作用もなく、根本的に不眠を改善させる事ができます。
お薬を使わない不眠症の治療法として「認知行動療法」があります。
認知行動療法は、物事に対するとらえ方(認知)のゆがみを修正する事で症状の改善をはかる治療法で、 うつ病や不安障害の治療法としても用いられています。
精神科医や臨床心理士といった専門家と一緒にある程度の期間をかけて行われ(1回60分のセッションを6~12回程度)、
専門家の指導の下でしっかりと行った場合、不眠症に対する有効率は8割とも言われています。
専門家と
•睡眠に対する正しい知識を学ぶ
•自分の睡眠状況を客観的に評価する
ことを行い、自分の「眠れない」という認知にあやまりはないのか、 どのような理由によって不眠が生じているのかなどを評価していきます。
また眠りの質を高めるような技法
•筋弛緩法
•刺激制御法
•睡眠制限法
を学び、日常の睡眠に生かしていきます。
認知行動療法は自分1人で行う事は難しく、必ず専門家の指導を受けながら行う必要がありますので、興味のある方は近くの精神科で相談してみましょう。

10.その他不眠症改善に役立つ治療法

その他不眠症治療の主力ではないものの、睡眠を補助的に改善させてくれる治療法を紹介します。

Ⅰ.アロマ

アロマテラピーは精油(エッセンシャルオイル)を用いて治療を行う方法です。
日本では「治療に使う」というイメージの少ないアロマですが、海外ではアロマを医療に用いている国もあるほどです。
アロマは精神状態に作用するものも多く、不眠を改善させるのにも役立つ可能性があります。
用いる精油によって得られる効果は様々ですが不眠症状に用いられる精油には、
•ラベンダー
•セドロール
•バニラ
•白壇(びゃくだん)
•沈香(じんこう)
などがあります。これらには鎮静効果があるため、心身をリラックスさせたり、眠りを導くのに効果的だと考えられています

Ⅱ.音楽

音楽も上手に利用すれば不眠改善の助けとなります。
世の中には「安眠CD」と呼ばれるものがあります。「これを聴けばよく眠れるよ」というもので、脳のα波を増やすといった効能が謳われていたりします。
眠りに入る前の段階で落ち着いた音楽や自然の音(川のせせらぎや鳥の声など)が入っている音楽を聴くと心身をリラックスさせ、眠りに入りやすい状態を作ってくれます。
そのため、眠りに入る前の段階で落ち着ける音楽を聴く、という使い方は有効です。
しかし寝ているときに音が聞こえてしまうと、脳が覚醒してしまいますので、眠りが浅くなったり目覚めたりしてしまい、睡眠の質は低下してしまいます。
入眠に合わせて音楽が消えるような設定をする方が良いでしょう。

■寝汗の対処法

「眠れない」と訴える方の中には、睡眠自体に問題があるわけではなく、寝汗をひどくかいてしまい、夜中に起きてしまうという症状の方もいます。
確かに夜中に身体が汗びっしょりになってしまえば、不快に感じ目覚めてしまうでしょう。
寝汗は様々な原因で生じますので、原因によって取るべき対処法は異なってきます。

Ⅰ.正常な反応

そもそも寝汗は正常な生理現象としてもある程度認められるものです。
正常な睡眠では、眠りに入ると徐々に深い眠り(徐波睡眠)に移行していきますが、深い眠りに入る直前で寝汗はもっとも多くなります。
この時に中途覚醒してしまうと、「寝汗をすごくかいている!」と勘違いしてしまう事があります。
こういった場合の問題は寝汗ではなく、深い眠りに入る前に覚醒してしまう事です。
睡眠に入ってから1~2時間ほどで中途覚醒してしまって「寝汗が多い」という方は、このような寝汗が多いタイミングで起きてしまっているという可能性を疑う必要があります。
その寝汗は正常なものですから、寝汗を対処しようとするのではなく、中途覚醒を改善させるのが正しい対処法になります。

Ⅱ.放熱不足

体温が急激に下がると眠気を感じます。寝汗も体温を下げるはたらきがあります。
皮膚表面に汗が分泌されると、その汗が蒸発する際に熱を奪います(これを気化熱と言います)。
寝汗は気化熱によって体温を下げ、体温を下げる事で深い眠りに導くはたらきがあるのです。
しかし体温がなかなか下がらない状況(例えば室温が高かったり、布団の中の通気性が悪すぎて熱がこもりすぎていたり)だと、いくら汗を蒸発させても体温が下がらないため、 身体は「もっと体温を奪わないと!」とさらに汗を分泌させます。
このような「放熱不足」によって寝汗を悪化してしまう事があります。
体温の放熱が上手く行えずに寝汗が増えている場合、寝汗を少なくしようと考えるよりも、放熱がうまく行なえるように寝室環境を調整するという対処法が正解です。

  Ⅲ.自律神経の失調
精神の不調は、自律神経のバランスを乱します。そして寝汗の分泌は自律神経によって調節されているため、 自律神経のバランスが乱れると変なタイミングで寝汗が出てしまうようになります。
自律神経のバランスが乱れて寝汗が生じている場合は、自律神経を整えるような生活をすることや、自律神経を乱している原因を対処することが大切です。
例えばストレスが原因などであればストレスを回避したりストレスを上手に発散するような工夫が必要になります。うつ病などの精神疾患がある場合は適切な治療を行うことが大切になってきます。

  Ⅳ.発熱によるもの
体温が高い状態だと、体温を下げるために汗の量が増えます。
つまり発熱性の疾患にかかっている場合は寝汗もひどくなります。
例えば、
•感染症(高熱が出ている)
•甲状腺機能亢進症
•お薬の副作用
などによって高熱が出てしまうと、寝汗は悪化するでしょう。
風邪(上気道炎)や気管支炎、胃腸炎などの感染症にかかって高熱が出れば寝汗も多くなります。
甲状腺機能亢進症というのは、代謝を高めるホルモンである甲状腺ホルモンがたくさん出てしまう疾患です。甲状腺ホルモンが多くなると代謝が亢進するため汗もかきやすくなり、寝汗も多くなります。
これらの場合は寝汗は病気の症状の1つですので、根本の病気の治療を行うべきになります。
またお薬の副作用で発汗が出ることもあります。
お薬が原因で寝汗が出ている場合は、原因薬物の中止が対処法になります。